そのAIを利用した安全運行管理ソリューションはどのくらい優れているのか?
昨今では、ドライバーと車両の安全性を提供するどのソリューション=も、人工知能(AI)、機械学習、コンピュータビジョンを活用して、顧客にとっての優れたソリューションを実現していると主張しています。しかし、その「AI」とはどのくらい優れているのでしょうか? ドラレコやデジタコがリスクを検出して衝突を減らせるかどうかは、車載機に組み込まれたAI技術モデルと、クラウド上の洗練されたAIおよびデータサイエンスとカメラの処理能力を組み合わせることにかかっています。したがって、AIを利用した安全運行管理システムを構築または選択する前に、必ず以下の5つのシンプルな問いを投げかけてください。 1. ニューラルネットワーク構築に利用される運転データの量はどれくらいか? AIが交通安全指導者のように、ドライバーの行動、交通要素、車両の動きのリスクを理解できるようになったら、次は、ドライバーの特性、服装、車内の広さ、照明条件、道路状況、交通パターンなどを含めて、どのような運転環境下でも、同じ行動を認識できるように訓練する必要があります。 複雑な交通環境に含まれるパターンや傾向を的確に認識するためには、深層学習ニューラルネットワークを開発する必要があります。これは、人間の脳のような精度と速度でパターンを認識するように設計された一連のアルゴリズムですが、自動化された効率的な方法で構築する必要があります。人間の目や脳と同様に、AIも新しい実世界の運転データで継続的に学習させない限り、このような様々な環境下で同じ行動を捉えることができません。そういったソリューションを検討するときは、ドライバーの行動、交通要素、車両の動きをを正確に解釈できるように、どれくらいの長さの運転データが分析されているかを問う必要があります。 2. どのようなAI技術モデルを使っているか? AIを実装する方法は、ネットワークエッジ(この場合は車両へ搭載された車載機)、クラウド、エッジツークラウドによるエンドツーエンドなど、多岐にわたります。現在の映像テレマティクスやドライブレコーダーのソリューションのほとんどは、危険挙動を特定する前に、ドライバーの映像をクラウドにアップロードし、分析(すなわちクラウド側で確認)する必要があります。この方法には、車両からクラウドへ、クラウドから再び車両へというデータ転送によるタイムラグ(レイテンシー)が生じるため、リアルタイムのアラートが遅れるという大きな欠点があります。クラウド内の遅延は、エッジで処理されるリクエストと比較して3倍長くなります。 エッジでのAI処理がリアルタイムの衝突防止システムとして設計される一方で、クラウドを活用するソフトウェアは迅速な反復によってモデルを改善し、優れた可用性、拡張性、信頼性などのメリットをもたらします。市販のハードウェアリソースを最大限に活用するには、AIベースのドライバー安全管理ソリューションをエッジとクラウドの両方にわたって実装し、それぞれがもたらす長所を最大限に活かす必要があります。そのようにしてこそ、非常に複雑な運転環境におけるハイリスクイベントの発生を事前に予測、予防、低減できるようになります。 3. そのAIは何をリアルタイムに検出し、予測できるか? カメラの中には、AIを活用してあおり運転などの車両前方で起きているイベントを検知するものもあれば、携帯電話を手に取るなどの車両内でのドライバーの特定の行動を分析するものもあります。 しかし、ドライバーができるだけ多くの衝突を回避できるようにするには、車外と車内の両方で起きていることを同時にリアルタイムで分析し、AIモデルの出力を同期させて、タイムリーに警告を発するシステムが必要です。 例えば、わき見運転をしていたドライバーに、反応し衝突を回避するための時間的余裕を与えるには、より早く警告する必要があります。 車外のイベントだけを分析するAIシステムでは、タイムリーな警告を行うことはできません。 さらに、できるだけ多くの衝突を回避するためには、車両、歩行者、自転車、その他の物体に衝突する危険性があるかどうかに応じて、ドライバーに異なる警告を与える必要があります。 最後に、AIはドライバーの眠気や疲労など、最もリスクの高いイベントを検出しているか?また、イベントを分析する際には、数フレームを見ているのか、それとも数百フレームを処理して時間経過に伴う行動の変化を把握しているのか? ドライバーの目元が見えない場合はどうなるのか、それでも検出は機能するのか? 運転リスクをできる限り低減するために、AIが検知できる全範囲を必ず把握してください。 それは、人命を救い、数億円を失わずにすむことにつながります。 4. そのAIには、正確さ、明確さ、そしてリアルタイムの応答性があるか? ケガを防ぎ、命を守るためには、車内外のイベントを最高精度で検知するAI搭載型安全運行管理システムを導入したいものです。60〜80%の確率でしか機能しない安全システムを誰が望むでしょうか?本当にリスクを低減し、人命を救うためには、AI 搭載型安全運行管理ソリューションは、90%以上の精度を実現し、広い視野(前方の車両だけでなく)で鮮明な映像を提供し、AIを活用してドライバーの行動、交通要素、車両の動き、重要なコンテキストデータからリアルタイムリスクを同時に評価できる必要があります。 5. そのAIアーキテクチャには、リスクを低減できる十分な処理能力が備わっているか? リスクを低減し、イベントが発生する前にドライバーにリアルタイムで警告を行い十分な対応時間を確保させるために、AIアーキテクチャ(ハードウェアとソフトウェアの両方)は、複雑な映像シナリオをより正確に解釈するために、エッジ上で深層学習アルゴリズムを実行するための優れた画像処理能力、メモリ、および速度を備えていなければなりません。多くのADASや映像テレマティクスのソリューションは、リアルタイムのAIを提供するために開発されていないか、そういった意図がないため、真にリスクを低減し、ドライバーの行動を積極的に改善するための適切なAIアーキテクチャや処理能力を備えていません。 優れたAIを搭載した安全運行管理システムは、車両の運行がより安全で優れたものになること、ドライバーが路上で常に安全に運転できること、賠償請求を最小限に抑えることに目的を置いて構築されています。
第11回:事故の結果で指導法を変えない
前回に引き続き、「指導のポイント」についてのお話です。今回は第2のポイントである「事故の結果で指導法を変えない」ということについてお伝えしたいと思います。 車が歩道に乗り上げて、歩行者や自転車の方を巻き込んでしまうという痛ましい事故が、意外と頻繁に起こっています。巻き込みはしなかったけれど電柱やガードレールがなければ歩行者を巻き込み、最悪の場合は死亡事故になっていたかもしれない、という事故まで含めると甚大な数になると思います。 事故の大小ではなく、事故原因を見る 過去に分析した事故映像に、とても似たケースの右直事故がいくつかありました。いずれもドライバーの運転に原因があり、しかも同じ行動パターンによるものでした。どちらも交差点での右直事故なのですが、一つは相手車が衝撃で横転してしまったものでした。車道と歩道の間にたまたまガードレールがあったので車が横転して止まったのですが、ガードレールがなければ、間違いなく歩道で横断歩道側の信号待ちをしていた自転車の親子が巻き込まれていました。 もう一つは、直進するタクシーに右側から盗難車が出てきて当たった事故だったのですが、当てられたタクシーは衝撃で左を向いてしまいました。そしてそのまま、やはり信号待ちをしている自転車に向かって行ってしまった。これもたまたま電柱があったので自転車の親子は比較的軽傷ですみましたが、おそらく電柱がなければその場にいた歩行者の方は亡くなっているほどの事故でした。 2019年に、散歩中の保育園児16人を巻き込んでしまった悲惨な事故がありました。事故現場には、ガードレールがありませんでした。これも右直事故による歩行者巻き込み事故でした。先の2件も、ガードレールや電柱がなければ確実に歩行者が巻き込まれている状況です。ガードレールがあったかどうか、そしてガードレールがあったとしても歩行者や自転車の方が内側に立っていたか外側に立っていたか、この違いで事故の結果は大きく変わるのです。この条件はドライバーにとってどうにかできるものではありません。しかし、事故の結果だけを元に対策を練ることがあります。これが怖いのです。結果だけ見て「怪我人がいなくて良かった。次からは気を付けるように」というような対策では、ドライバーの行動パターンは変わりません。 軽微な事故は重大事故の芽 いずれの事故も、交差点での減速をしていない事が事故原因です。僕が分析した事故映像では、減速どころか信号が黄色になっているにも関わらず、アクセルを踏んでしまっていました。この行動パターンは論外です。黄色は「止まれ」の合図ですから、踏むのはアクセルではなくブレーキでなければなりません。事故の原因はここにあるのです。黄色信号でアクセルを踏むという行動パターンを見落としてしまうと、「交差点に進入する際は速度を落とす」「黄色信号では止まる」といった対策を指導できず、いずれ死亡事故を起こしてしまう可能性が残されてしまうのです。 事故を起こすかどうかはドライバーの運転行動によって決まります。しかし事故の大きさはドライバーが決められるわけではありません。普段から軽微な事故を起こしているドライバーというのは、「どうせ事故を起こしてもこの程度の事だろう」と思ってしまうため、なかなか行動パターンを変えてくれません。人は結果論で判断してしまいがちですから、行動パターンを変えないのです。しかし、管理者は軽微な事故で済んだ時点で止めておかなければなりません。やがて死亡事故を起こしてしまうからです。他者や自身を死なせてしまう前に、行動パターンを変えてあげなければなりません。 そのためにも、事故の結果を見て対策を決めるのではなく、なぜその事故が起こったのか根本原因を突き止め、それを回避するための対策を伝えてあげる必要があるのです。 次回でこの連載も最終回を迎えます。最後のテーマは「個人のリスクに落とし込む」をテーマにお話ししたいと思います。 ===== 執筆:上西 一美株式会社ディクリエイト代表一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長Yahooニュース公式コメンテーター 1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。
第10回:法的根拠における具体的指導のポイント
今回は「法的根拠における具体的指導のポイント」についてお話していきたいと思います。 セミナーでもよく使用する映像の中に、信号機のない横断歩道を子供が渡っていて轢かれてしまうという、非常に大きな事故があります。現場の状況としては、対向車線に停止中の車列が出来ており、横断歩道の右側に人がいるかどうかは分からない状態でした。 このような事故の防止策をどうしますかと質問すると、ほとんどの方は「減速をする」と答えます。 しかし、前回お伝えしたように、あいまいな表現で伝えるのは良い指導とは言えません。減速をするなら何キロまで落とすかというのを明確に伝えていただきたいのです。 法的根拠を示す 信号機のない横断歩道の手前には、ひし形マークが2つ路面に描かれています。これは「この先に横断歩道又は自転車横断帯があります」と予告する意味の標示で、1つ目は横断歩道等の50メートル手前、2つ目は30メートル手前にあります。 ひし形を見た時点で、時速15キロメートルぐらいにまでスピードを落として頂くと良いと思います。 これは、実は道路交通法第38条にその根拠があります。 みなさんは38条が何についての条文かご存じでしょうか? 38条は「横断歩行者等の保護のための通行方法」についての規定です。 横断歩道等に横断者がいないことが明らかな場合を除き、停止することができる速度で進行しなければならないと定められています。 同時に、横断歩道等またはその手前で停止している車両がある場合は一時停止しなければならないこと、歩行者が道路を横断している時はその歩行者の通行を妨げてはならないことも定められています。 このことから、冒頭に紹介した事故における状況では、時速15キロメートル以下、いつでも停止できる速度で進行しなければ法律違反になるということです。 違反をおかして横断歩道上で人をはねると重過失になりますから、当然、有罪判決になりやすいです。ましてや人を死なせてしまうような事故になってしまうと実刑になる可能性が高くなります。 このように、法律の根拠があるものに関しては、その根拠を示して具体的な対策をしっかりと伝えてください。 そして、誰もが同じ行動パターンを取るように、数値に落とし込んで指導をするのです。 横断歩道上の事故で同じようによく見られるケースに、同一進行方向の車線の車が横断歩道手前で停止しているにも拘らず、一時停止することなく進行して横断中の歩行者を撥ねてしまうというものがあります。 これも、38条の違反です。 先に述べたように、38条では「車両等は、横断歩道等又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない。」と定められています。 一時停止せずに通過するのは、違反行為なのです。 「歩行者優先」の義務がドライバーにはある 残念なことに、この道路交通法第38条は全国的にもあまり守られていません。 JAF(一般社団法人日本自動車連盟)が2020年8月12日から8月26日に「信号機のない横断歩道」における歩行者優先についての実態調査を全国で実施しました。 各都道府県2か所ずつ、全国94か所の信号機が設置されていない横断歩道で行われ、何台の車が停止するかを調査したものです。結果は全国平均で21.3%。対象となった9,434台の車両のうち、一時停止した車はわずか2,014台でした。 約80%の車が道路交通法違反をしていたのです。 僕は今、この道路交通法第38条を全国に広めるべく、「Respect The Law 38」(https://respect-38.com/)というプロジェクトを立ち上げ、活動を行っています。 違反者が多い現状の大きな原因の一つとして、「歩行者優先」の義務が車にあることを認識していないドライバーがあまりにも多いのです。 ドライバーには歩行者優先の義務があることを伝え、横断歩道付近ではどのような運転をするのか具体的な指導をしていただきたいと思います。 次回は「事故の結果で指導法を変えない」という第2のポイントについてお話したいと思います。 ===== 執筆:上西 一美 株式会社ディクリエイト代表 一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長 Yahooニュース公式コメンテーター 1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。