第9回:指導時のポイント
早いもので連載も今回で9回目となりました。ここからは「指導のポイント」に関するお話をしていきたいと思います。指導するにあたり、ポイントは大きく3つあります。今回は1つ目のポイント「具体的かつ現実的な指導をする」について解説していきます。 あいまい表現は使わない 事故防止の社内研修などでよく耳にするのは、「気をつけましょう」や「注意を徹底しましょう」といったあいまいな表現です。あいまいな表現で伝えると、相手の行動もあいまいになる事が多いです。事故を防止するためには、具体的に取ってほしい行動パターンをかみ砕いて伝える必要があります。具体的に伝える時に非常に有効なのが、数値に置き換えることと、やるかやらないかをはっきりさせることです。そしてデータや法的な根拠を持ってルールを設定することが望ましいです。 連載第4回の時に、一時停止をする意味について書かせていただきました。セミナーや研修会で一時停止について話をする時、止まる意味と併せて5秒間止まるようお伝えしています。「しっかり止まりましょう」と言っても、聞き手によって「しっかり」の度合いがバラバラで、1秒しか止まっていなくても「しっかり止まった」という人はいます。そこですでに、僕の「しっかり」とその人の「しっかり」では4秒もの開きがあるわけです。だからこそ、数値で明確に表現することが大事なのです。 一時停止の時間と同じように、人による感覚の違いで大きく結果が変わってくるのが「徐行」です。「徐行して走りましょう」と言う時、僕の感覚では時速10㎞以下の速度です。しかし時には時速30㎞と答える人もいます。これでは道路交通法で定められている「車両等が直ちに停止することができるような速度」とは到底言えません。 指導時に度々耳にする言葉に、「事故を防ぐために、危険だと思う場所ではしっかり徐行しましょう」というものがあります。事故を起こす人はその場所が危険だと思っていないから徐行をせずに走行して、事故を起こすのです。例えば「横断歩道の近くでは歩行者がいるかもしれないので、時速10㎞以下で走行し、右側の車線の車が停止している場合は横断歩道手前で必ず停止しましょう」というように、どのように行動すればよいのかを伝えなければなりません。 例外は言い訳を作る もう一つ大切なのが、現実的に実施できるかどうかです。しかもいつでも同じ行動が取れるような事故防止対策を立てる必要があります。雨が降っていたから、雪が積もっていたから、対向車が来たから、歩行者がいたから、「だから出来ませんでした」と言ってしまえるようなルールでは意味がないのです。「例外的なケースだったら仕方がない」とおっしゃる管理者や経営者がいますが、事故は例外の時にこそ起きるのです。「例外的な状況だったのでルールは実施出来なかった」というのは、ただの言い訳にすぎません。100%出来る事でなければ、ルールとして設定する意味がないのです。 必要な行動を明確に具体的に伝えることが、事故防止の実践につながります。「気をつけましょう」や「注意しましょう」といったあいまいな指導では、事故を防ぐ行動に至らないことも多いのです。具体的に示すために、数値を設定すること、そして100%実施できる行動を設定することを念頭に置いて指導してみてください。 次回は、法的根拠における具体的指導のポイントについてお話したいと思います。 ===== 執筆:上西 一美株式会社ディクリエイト代表一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長Yahooニュース公式コメンテーター 1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。
第8回:自動車対人の事故
今回は、自動車と人の事故についてお話をしていきたいと思います。警察庁が5月に発表した交通事故統計によると、令和3年1月から4月末時点の交通事故死亡者数は813人でした。そのうち歩行者は293人。うち、222人が65歳以上でした。 高齢者の特性 交通事故は毎年12月に最も件数が増加するのですが、特に12月に多いのが広い場所での歩行者との出会い頭での事故です。これもやはり高齢者が多い。人口割合的に65歳が多いので当然と言えるのかもしれませんが、高齢になるにつれて、人は目先のリスクには強く、次のリスクは頭から飛ばしてしまう特性が見られるようになります。また、体力の衰えから、横断歩道のある場所ではなく、目的地に最も近い場所で道路を横断しようとしてしまう傾向もあります。 車から見ると、右側から出てきて轢かれてしまうケースが多いです。高齢者が道路を横断する時、自分の右側から来る車両やバイクには注意が行きますので、そこはしっかりと見ていて距離を図り、道路を横断しはじめます。でもその反対から来る車両やバイクには注意が払われていませんから、事故となってしまうわけです。 過去に分析した事故映像には、トラックが直進時に横断歩道上で歩行者をはねてしまったけれども、運転手に対する刑事罰がまったくなかった事例というのもありました。 事故は夜間に起こったものでした。歩行者は横断歩道上を歩いていましたが、事故が起こった時、信号は車両側が青でした。さらにトラックは制限時速50キロのところを44キロで走行していました。幸い歩行者の方は事故から3日後に退院しましたが、横断歩道上の事故ですから、大半の方が「こういうケースでも歩行者よりもトラックが悪いんじゃないか」と言われます。歩行者対自動車の場合、イメージとして自動車への過失割合が大きいと思われるんですね。 過失というのは2つあって、民事上のものと刑事上のものです。ドライバーにとっては、事故を起こしたことで刑務所に入るかどうかという刑事罰の方がより気になるところかもしれません。先ほどの事故で言うと、民事上の過失は7:3でした。歩行者側に7です。トラック側は3。一方、刑事罰はというと、先ほど述べたようにまったくありませんでした。罰金も反則点数も免許停止も何もなかったのです。 ルールを守れば自分を守れる 警察が事故状況を取り調べた後、検察庁に送検します。書類送検といいますが、送検した際に検察側が「これは起訴できない」と言ったのです。不起訴となりました。もしもこの事故の時、ドライバーに道路交通法違反があれば、間違いなく立件された案件です。しかしドライバーには違反がありませんでした。そのため刑事罰は問われなかったのです。 交通ルールを守るという事は、自分の身を守るということです。ただ速度を守れと言っても、人はあまり行動パターンを変えません。万が一車道に歩行者がいた場合に自分の立場を守れなくなるよ、速度超過しない事は自分の身を守る事だよ、と伝えてみてください。無理な横断や信号無視をする自転車や歩行者は、残念ながら割と頻繁に見られます。いつそういう場面に遭遇するか分かりません。そういう時でも交通ルールを守っていれば、自分を守れるかもしれないと思うと、ドライバーの行動は変わっていくと思います。 ドライバー指導の場合には、信号を守る・速度超過をしない・ハイビームにできるタイミングではハイビームにする、この3つのポイントを、「守った場合にどう自分を守れるのか」まで落とし込んだ話をして、運転の習慣を変えてあげて欲しいと思います。 最後に、対歩行者の事故で夜半から明け方に増える「路上横臥(おうが)」について触れておきたいと思います。 路上横臥とはつまり道路上で寝込んでしまった歩行者を、車が轢いてしまう事故です。歩行者が道路に寝ているとはあまり想定しないと思うのですが、こういう事故でも速度超過が10キロ以上あると、ドライバーには刑事罰が科せられます。 不可避の状況に思われる事故でも、違反があれば責任を問われます。どういう行動パターンを取れば自分を守れるのか、ドライバーの運転習慣を変えるためにも、ドライブレコーダーの映像を使ってダイレクトに伝えられる有効性を活用してください。 次回からはドライバー指導をする方向けに「指導時のポイント」をお伝えしていきたいと思います。 ===== 執筆:上西 一美株式会社ディクリエイト代表一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長Yahooニュース公式コメンテーター 1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。
第7回:なぜショートカットがダメなのか
前回に引き続き、なぜ事故防止にドライブレコーダーの映像が有効なのかについてお話します。 第6回では、道路交通法に基づいた軌道で右折しなければならないという事例を紹介しました。ではなぜ、ショートカットをしてはいけないのか。 ショートカットをすると死角になる範囲が広くなってしまうからです。 死角を少なく 運転席からの視界には、どうしてもピラーとミラーが入り込みます。早くハンドルを切ると、図【1】のような角度で、ピラーとミラーの死角ができます。 一方、道路交通法の通りに交差点の中心の内側を走行すると、死角は図【2】のような角度になります。 ショートカットをするドライバーは、死角を長く作ってしまう行動パターンを持っているということです。この運転習慣を持つドライバーには、死角を意識するよう指導する必要があります。ハンドルを早く切るとリスクが高いので、大きく曲がるような運転習慣を身に付ける指導をしなければなりません。 映像によって事実確認がきちんとできると、指導も方向性を間違うことなく的確に行えます。これもドライブレコーダーの映像を使用するメリットの一つです。 道路交通法34条でなぜショートカットを禁止しているかというと、死角を極力少なくするためだけでなく、対向車線に出ている時間を短くするためでもあります。人は自然とショートカットをする傾向がありますので、右折の仕方をしっかり確認していただきたいですね。 映像はイメージのズレをなくす ここまで、ドライブレコーダーの映像を使用すると「事実確認が正確にできる」、「指導が的確にできる」という2つのメリットについてお伝えしましたが、最大のメリットはやはり「映像で情報を提供できること」です。 文字や言葉だけで伝えると、イメージするものは人それぞれ違っているため、理解度や解釈が変わってしまいます。 ところが、映像で見せるとダイレクトに情報が伝わります。事故の状況や原因そして対策を説明する時に、映像があることで相手の理解をより深められるのです。 例えば、みなさんは「東京駅」と聞いて何が思い浮かびますか? 東京駅の象徴である赤レンガや、新幹線によく乗る人は新幹線、タクシー乗り場を思い浮かべる方もいるかもしれませんね。 僕は東京駅と聞くと「東京バナナ」しか出てこないんですよ。独立したての頃に駅で買った事が強く記憶に残っているからだと思います。 東京駅と聞くと、僕は東京バナナしかイメージしていません。ですが、新幹線を連想した人もいますよね。そうすると僕はその人に「なんで東京バナナやないんですか」と言うわけです。でも逆にみなさんからしたら「なんで東京バナナなんだ」となる。 人は、文字から連想するイメージで記憶していきます。これはすごく大事なポイントです。文字から連想するものがみんな同じであればいいのですが、連想するイメージは人の記憶によるところが大きいのです。ですから、同じ文字を見てもイメージが違うと理解と解釈が変わってくるわけです。 感覚で行う運転に対して、文字や理論だけで伝えてもなかなかイメージができません。心に残らないのです。 ダイレクトに映像(イメージ)で伝えていくことが、事故防止の指導では非常に重要なのです。 次回は自動車対人の事故についてお話したいと思います。 ===== 執筆:上西 一美 株式会社ディクリエイト代表 一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長 Yahooニュース公式コメンテーター 1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。