Nautoのロゴ

第5回:ながら運転

令和元年12月に道路交通法が改正され、運転中の「ながらスマホ」に対する罰則が強化されました。警察庁の発表によると、令和元年中の携帯電話使用等による交通事故件数は2,645件で、死亡事故率は携帯電話等不使用の事故と比較すると2.1倍にもなったそうです。

罰則が強化されて以降の令和2年における携帯電話使用等の検挙数は309,058件と、前年の716,820件から半数以下に減少はしています。でも未だにながらスマホ事故は無くなりません。事故映像分析でも、多くのながらスマホ事故を目にします。

「たった1秒」が事故原因に

ながらスマホをしてしまう人に共通しているのは「車間距離も取れているし速度も遅いから大丈夫」と思ってついスマホを見てしまうという行動パターンです。しかも、そういう運転をしても事故にならなかったという経験を積み重ねることで尚のこと、ながらスマホという危険行動になりやすいように感じられます。

不安全な行動をしても事故にならなければ、どんどんそれが当たり前になっていくんですね。

 

運転中に1、2秒くらいなら携帯電話を見たという経験は、読者の皆さんにも心当たりがあるのではないでしょうか。

そのたった2秒の画面注視で起こしてしまった事故事例の映像があります。事故当事者の車は時速40キロで走行し、車間距離も35メートルを保持。条件だけ見ると非常に安全運転ですね。

 

ドライバーは、運転中にずっと携帯電話の画面を見ていたわけではありません。1秒画面を見たらすぐに前方に視線を戻す。何度かそれを繰り返し、2秒ほど画面を見た時に前方の車両に追突しました。前の車両がちょうど右折しようとして止まったタイミングと、携帯電話の画面を見た2秒がたまたま一致したのです。

 

たった2秒と思ったかもしれませんが、時速40キロの走行で車は22メートルも進みます。車間距離を35メートル取っていたとしても、前車が停止した状態で2秒経過すれば、車間距離は13メートルにまで縮みます。視線を上げて「危ない」と思った時にはもうぶつかります。

 

たった1、2秒で、事故は起こるのです。「1秒見るくらいなら」そう思って運転中に携帯電話を手にしている人がいたら、自分がどれだけリスクがある運転をしているか、事故映像を見て認識していただきたいですね。

反射的に動く危険性

画面注視や携帯電話保持ではなく、ハンズフリーで会話しているドライバーが事故を起こした映像もあります。

運転手が会話中に車が右カーブに差し掛かり、ダッシュボードの上に置いていた日報が助手席側の足元に落ちたのですが、それを反射的に取ろうとしたのです。車は左にそれ、その直後、前方にいた自転車の方を轢いてしまいました。たまたま相手が軽傷で済みましたが、場合によっては死亡事故にもなり得る状況です。

運転だけをしている状態であれば、カーブの手前で助手席側の足元に落ちた物を取りに行くという行動はしないはずです。でも携帯での会話に夢中になってしまうと、人は反射的に動いてしまうことがあります。

ハンズフリーであっても、携帯での会話は非常にリスクの高い行動なのです。

 

ながらスマホに関しては冒頭でお話したとおり、罰則が厳しくなりました。反則金は携帯電話等保持の場合は18,000円。事故を起こしたら反則点数が6点で、反則金の対象外となります。刑事罰です。罰金が最大30万円。人身事故の場合は、付加点で基本的に6点、罰金も最大50万円プラスされます。

 

罰則で人の行動パターンを変えるというのは、本当は良くないかもしれませんが、人の意識・認識を変える一つの大きなきっかけとなるのは事実です。飲酒運転がそうですね。昔は数万円の罰金でしたが、今は100万円。すごい金額になったなと思うと同時に、飲酒運転による事故をニュースで見ると「まだ飲酒運転をする人がいるのか」という認識になりました。罰則が厳しくなったことをきっかけに、常識が変わったんですね。ながらスマホも同じです。すでに常識が変わりつつある。「少しくらいいいだろう」ではなく、“しないのが当たり前”なんです。

 

次回は「なぜドライブレコーダーが事故防止に有効なのか」をお話したいと思います。

=====
執筆:上西 一美
株式会社ディクリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター

1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。