
【交通安全ニュース解説コラム】第93回 「遠くに見えた」は命取り 右直・左折時の二輪事故を防ぐために
みなさんこんにちは、ディ・クリエイトの上西です。
7月と8月に増加する事故を、みなさんご存じでしょうか。
この時期は、バイク事故が多くなります。
特に、中高年の運転者によるバイク事故が増加します。
警察庁の発表した「二輪車乗車中死者・重傷者数の推移」によると、死亡事故で最も多い年代は50歳から54歳でした。
令和2年から令和6年の合計で280人が亡くなっています。
事故原因として最も多いのは、二輪車が直進しているときの右折対直進の事故で、次に多いのは出会い頭の事故です。
距離の誤認で衝突
右直事故では、いわゆる「サンキュー事故」と言われるものが多いと思われます。
これは対向車線の車に進路を譲ってもらったとき、あるいは対向車線の車列が交差点を挟んで停止している状態のときに、右折しようとした車両が、直進してきたバイクと衝突してしまう事故です。
右直事故のように、そもそも直進するバイクに気づかずに衝突するケースとは別に、非常に特徴的な事故原因があります。
事故を起こした運転者に話を聞くと、ほとんどの人が「バイクがもっと遠くにいると思った」と答えるのです。
いわゆる「距離の誤認」です。
距離の誤認が起こってしまうのは、そもそも人間は「動きながら動く物を見て正しく認識する」のが不得意であるためです。
また、目の錯覚により二輪車が実際より遠くに、そして速度も遅く見えてしまいます。
さらに、左折時に関することですが、ミラー越しでは正確に距離を測れないということも挙げられます。
過去に、運転席に座った状態で、ミラーに映る二輪車との距離を答えてもらうという実験をしたことがあります。
15m後方に二輪車を設置したのですが、8割以上の人が、実際よりも遠い距離で回答しました。ほぼ倍の距離と答えた運転者もいました。
ミラー越しに二輪車との距離を正確に測ることは非常に困難であることを、覚えておいてください。
右折時の二輪車との事故を防止するためには、対向車の左車輪の延長線上に停止線があることを想定して、そこで一時停止をして安全確認を行ってください。
左折時の事故を防止するためには、ミラーを確認するまでハンドル操作はせず、ミラーに二輪車が映っていたら、そのまま停止してください。
いずれの場合でも、二輪車の姿を認知したら、二輪車が通過するまで停止して待ちましょう。

時々、車両の左側をすり抜けて行くのは違反ではないか、と言う運転者がいますが、これは違反ではありません。この行為は「追い抜き」にあたります。追い抜きに関しては、道路交通法に禁止事項は書いていないのです。
だからこそ、左折時には道路交通法第34条で定められているように、「あらかじめその前からできる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左端に沿つて徐行しなければならない」という左折のルールを守ってほしいのです。
そして、事故を防ぐために、停止して確認すること、バイクが通過するまで右左折をしないことを徹底してください。
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執筆:上西 一美
株式会社ディ・クリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター
1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。