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【交通安全ニュース解説コラム】第15回 自分と他人の感覚は違う

みなさんこんにちは、ディ・クリエイトの上西です。
2月末、神奈川県で横断歩道を歩いていた小学生が車にはねられる事故がありました。
運転者は過失運転致傷の疑いで現行犯逮捕されたのですが、小学生が横断歩道を渡るのは自分の車が通過した後だろうと思い、減速をしなかったそうです。

感覚を押し付けない

私は常々「やらない」と決めていることがあります。
それは自分の感覚を他人に押し付けないということです。
これは実は交通事故防止のうえでも非常に大切なポイントです。
以前は、「なんでこうなるんだ」「なんでそうするんだ」と思ってしまうことが日常でもよくありました。
車の運転をしていても「なぜこのタイミングで入ってくるんだ」といったことや「なんでそこでブレーキを踏むんだ」などと考えてしまっていたのです。
こういった思いを抱くことが、みなさんもあるのではないかと思います。
この「なんでこうなるんだ」という思いの原点は、「自分だったらこうするのに」という思いがあるからです。
自分だったらするであろう行動を、相手が同じようにしなかった場合に、「なんでなんだ」という思いが沸き起こるわけですよね。
これはつまり他の人も自分の感覚と同じだと思い込んで、「そうするべき」「そうするはず」といったように考えているということです。
自分の予測とは違う行動を取られた時に、人は不愉快になったりするのだろうと思います。
人それぞれ生まれた場所も違えば、育った環境も違います。そして年齢によって変わってくる「感覚」もありますよね。いわゆるジェネレーションギャップです。
みんなが同じ感覚であるはずがないのです。

車の運転でも「自分の感覚を相手に押し付けない」方が、事故は防げます。
自分だったらこのタイミングで入らないから相手も入って来ないだろう、という予測や、自分だったらこのタイミングで止まるから相手も止まるだろう、という予想を立てがちなのですが、そもそも感覚は同じではありませんから予測通りにはいきません。
冒頭の交通事故もまさにこの感覚の押し付けです。
運転者が自分の都合の良いように、小学生の行動を予測してしまっています。
そもそも、道路交通法では歩行者優先が義務付けられているにも関わらず、運転者は小学生が後から横断歩道を渡るだろうと決めつけてしまったのです。

認知の違いによる判断の違い

車の運転においては、感覚の違いに加えて「そもそも見えているものが違う」という根本的な違いもあります。
例えば、大きな通りを直進していて横から出てきた車を見た時に、大きな道路が優先道路だから狭い道路から出てきた車は当然止まるだろうなと、一般的には考えると思います。
しかし、この状況で止まらない人もいるわけです。
このくらいの距離だったら入っても大丈夫だろうという距離感の違いや、そもそも見ている所が違っていて、こちらからは見えているけれども相手は別の所を見ているために起こる判断の違いによるものです。
見るものが違うと「認知」が変わりますよね。相手が自分の車を見ていない、あるいは見えていない場合は、「いないから大丈夫」という判断になってしまいます。自分とはまったく逆の判断になるわけです。
これが事故につながるのです。

私は自分の感覚を相手に押し付けないよう心掛けるようになってから、車の運転をしている時でも「こうするだろう」という自分の感覚に基づいた判断はしないようになりました。「自分だったらしないけれど、もしかしたら相手はするかもしれない」と自分にとって都合の悪い方に判断するようになりました。
色々な感覚を受け入れて、こちらが対応できるように準備しておくことで、交通事故のリスクは減らせます。
みなさんも自分の感覚を押し付けることなく、自分にとって都合の悪い予測を立てて、交通事故防止をしてください。

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執筆:上西 一美
株式会社ディクリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター

1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。