第3回:なぜ事故がなくならないのか
第3回目となる今回は、「なぜ交通事故がなくならないのか」についてお話をしたいと思います。
年間400件以上、交通事故防止のための研修を行っていますが、交通事故がどういうものであるのかを理解してもらう事を目的にはしていません。参加者の皆さんが事故防止のために「行動するようになる」事を目的としています。
どういう運転が事故を引き起こすのか、どうすれば事故を防げるのかが頭で分かっていても、行動しなければ事故の抑止にはならないからです。
行動しなければ事故はなくならない
行動に移すために必要なのは、説明や理解ではありません。納得するかどうかです。
交通事故に関する情報は世の中に溢れています。動画サイトでは数多くの事故映像が見られます。様々な情報に触れ、なぜ交通事故が起こるのかは多くの人が理解していると思います。それでも事故がなくならないのは、情報から得た事故防止のための知識を、行動に移せていないからです。人の行動は、「なるほど、やってみよう」と思わなければ変わりません。
では、納得させるために何が必要なのか。それは、他人事ではなく自分事に置き換える、ということです。
例えば一時停止について。令和2年中に、一時不停止が原因で起きた死亡事故は67件です。一時不停止の違反となると、検挙されたのは160万件以上にも上ります。では、一時停止をせずに事故を起こしてしまったドライブレコーダーの映像を見ていただくと、事故は減るのでしょうか。
映像は、一時停止をしなければ事故を起こしてしまうという“教材”にはなります。しかし、見た人が運転行動を変えるまでには至りません。なぜかというと「自分事に置き換えない」映像だからです。
事故防止に重要なのは、映像を見た時にどう感じるかなんです。一時停止をしない映像を見ても、多くの人は「そりゃ一時停止しなければこういう事故を起こすよね」と思うだけで終わってしまいます。ほとんどの方は一時停止をしているからです。
他人事である事故を自分事に変えてもらうためには、一時停止したのに事故を起こす映像を見てもらう必要があります。
一時停止したのに事故を起こしてしまう、という映像を見た時に「止まっても事故を起こす可能性がある」と感じた人は行動パターンが変わるでしょう。
事故原因は停止時間ではない
僕は学生の時に免許を取得しましたが、当時先輩から「車の車輪を1秒止めたら警察に捕まらないから、とにかく1秒止めろ」と言われました。しかし、1秒ではあるけれども一時停止した車の事故映像を見たら、当時の僕は「いや違うやん」と思ったと思います。「1秒の一時停止だと、警察には捕まらないかもしれないが、事故に遭うだろ」と。
一時停止というのは検挙されないレベルで1秒くらい止めたらいい、と思っている人は、1秒の停止で事故を起こしてしまう映像を見て、行動パターンが変わると思います。
しかし、その映像を見ても多くの方の行動は変わりません。なぜか。もっと長く止まっているからです。「自分はもう少し長い時間停止している。こういう運転はしないから大丈夫」と思ってしまうと、他人事になってしまうわけです。
研修で一時停止では何秒くらい止まりますかと質問すると、ほとんどの方が3秒と答えます。だけど、3秒停止しても事故を起こしてしまう人はいます。
実は事故原因となる重要なポイントがそこにあります。大切なのは停止する時間の長さではないんです。一時停止場所でなぜ止まるのか、その「目的」をはき違えている人が事故を起こすのです。
次回は「一時停止線で止まるのは何のためか」を中心にお話をしたいと思います。
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執筆:上西 一美
株式会社ディクリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター
1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。