第4回:一時停止線で止まるのは何のためか
皆さんは一時停止場所で何秒止まりますか?
この問いに対し、多くの方が「3秒程度」と思い浮かべたのではないでしょうか。全国各地で事故防止のセミナーをしていますが、参加者に問いかけると大半の方は3秒と答えます。
では、3秒止まれば事故は防げるのでしょうか。
残念ながら、「3秒止まる」という意識だけでは、事故防止にはなりません。
一時停止は確認のため?
これまでに多くのドライブレコーダーの映像を分析してきましたが、一時停止線で3秒止まっても衝突事故を起こしてしまう映像や、3秒どころか12秒も止まっていたのに左から来た自転車にぶつけてしまう映像など、本当に沢山の事故映像を見てきました。
一時停止場所での事故原因は、停止時間の問題ではないのです。
一時停止場所で事故を起こすパターンは、2つあります。
一つは、「止まらない人」が事故を起こすパターン。
これは当然のことですね。事故防止の目的で定められている一時停止を無視するわけですから、事故を起こしてしまうのは当たり前とも言えます。
もう一つは、「止まっても」事故を起こすパターン。
この場合は、運転行動パターンに原因があります。その多くは、一時停止線で止まるのは何のためか、それを正しく理解していないがために取ってしまっている行動パターンです。
セミナーなどで質問しても、多くの人が「一時停止は確認のため」と答えます。これが大きな間違いです。自分が直進あるいは右左折する際の安全確認をするために一時停止するのではありません。確認のためであれば、停止線はもっと先に引いてあるはずなのです。ここで「確認をするために止まる」という意識を持っている人は何をしてしまうかというと、停止線オーバーを絶対にしてしまいます。停止線で止まっても、車両の位置的に「確認」は十分にできないからです。だから事故が起こる。
一時停止線は「出会い頭の事故を防ぐ」ためのものです
自分が進む“車道”の安全確認ではなく、その手前にある“歩道”での事故を防ぐためです。だから歩道の手前に線が引いてあるのです。本来は停止線でしっかりと、無条件に止まるべきです。歩道にいる人や歩道付近を走行している自転車との出会い頭の事故を防止して、もう一度車道の手前で止まって安全確認をする。この二段停止が事故を防ぎます。
認知・判断・動作を区切る
事故を起こす行動パターンは、停止線オーバー以外にもあります。安全確認時に、認知・判断・動作を同時にしてしまう行動パターンを持っている人も、事故を起こしてしまいます。
一時停止線で停止して出会い頭の事故を防止した後、車道の手前で今度は車の確認をします。例えば対面通行の道路で左折する場合、右から来る車両をまず確認しますから、目線は右を向きますね。人間は両目で物を見てその距離感を図る生き物なので、この時には目線だけでなく顔が右を向きます。顔が右を向くのは当然なのですが、問題はこの後です。事故を起こす人というのは、右を向いている顔を左に向けながら、同時にアクセルを踏み込んでしまうのです。つまり、左側の安全確認時に認知・判断・動作を同時にしてしまう。
認知して判断する時にはすでに動作に入ってしまっているから、人や自転車を認知した時にはぶつけてしまっているわけです。認知・判断をしっかりした上で動作に入る行動パターンを持っていれば、右を見ていた顔を左に向けた際に、「あ、人がいるな。自転車がいるな。」と思って「止まろう」もしくは「バックしよう」と判断できるのです。
事故防止のためにも、何のためにその交通ルールが定められているのか正しい理由を理解しておくここと、認知・判断・動作といった運転の行動パターンをしっかり分けて行うことが重要なのです。
次回は「ながら運転」についてお話します。
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執筆:上西 一美
株式会社ディクリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター
1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。