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第10回:法的根拠における具体的指導のポイント

今回は「法的根拠における具体的指導のポイント」についてお話していきたいと思います。

セミナーでもよく使用する映像の中に、信号機のない横断歩道を子供が渡っていて轢かれてしまうという、非常に大きな事故があります。現場の状況としては、対向車線に停止中の車列が出来ており、横断歩道の右側に人がいるかどうかは分からない状態でした。
このような事故の防止策をどうしますかと質問すると、ほとんどの方は「減速をする」と答えます。
しかし、前回お伝えしたように、あいまいな表現で伝えるのは良い指導とは言えません。減速をするなら何キロまで落とすかというのを明確に伝えていただきたいのです。

法的根拠を示す

信号機のない横断歩道の手前には、ひし形マークが2つ路面に描かれています。これは「この先に横断歩道又は自転車横断帯があります」と予告する意味の標示で、1つ目は横断歩道等の50メートル手前、2つ目は30メートル手前にあります。
ひし形を見た時点で、時速15キロメートルぐらいにまでスピードを落として頂くと良いと思います。
これは、実は道路交通法第38条にその根拠があります。

みなさんは38条が何についての条文かご存じでしょうか?
38条は「横断歩行者等の保護のための通行方法」についての規定です。
横断歩道等に横断者がいないことが明らかな場合を除き、停止することができる速度で進行しなければならないと定められています。
同時に、横断歩道等またはその手前で停止している車両がある場合は一時停止しなければならないこと、歩行者が道路を横断している時はその歩行者の通行を妨げてはならないことも定められています。

このことから、冒頭に紹介した事故における状況では、時速15キロメートル以下、いつでも停止できる速度で進行しなければ法律違反になるということです。
違反をおかして横断歩道上で人をはねると重過失になりますから、当然、有罪判決になりやすいです。ましてや人を死なせてしまうような事故になってしまうと実刑になる可能性が高くなります。
このように、法律の根拠があるものに関しては、その根拠を示して具体的な対策をしっかりと伝えてください。
そして、誰もが同じ行動パターンを取るように、数値に落とし込んで指導をするのです。

横断歩道上の事故で同じようによく見られるケースに、同一進行方向の車線の車が横断歩道手前で停止しているにも拘らず、一時停止することなく進行して横断中の歩行者を撥ねてしまうというものがあります。
これも、38条の違反です。
先に述べたように、38条では「車両等は、横断歩道等又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない。」と定められています。
一時停止せずに通過するのは、違反行為なのです。

「歩行者優先」の義務がドライバーにはある

残念なことに、この道路交通法第38条は全国的にもあまり守られていません。
JAF(一般社団法人日本自動車連盟)が2020年8月12日から8月26日に「信号機のない横断歩道」における歩行者優先についての実態調査を全国で実施しました。
各都道府県2か所ずつ、全国94か所の信号機が設置されていない横断歩道で行われ、何台の車が停止するかを調査したものです。結果は全国平均で21.3%。対象となった9,434台の車両のうち、一時停止した車はわずか2,014台でした。
約80%の車が道路交通法違反をしていたのです。

僕は今、この道路交通法第38条を全国に広めるべく、「Respect The Law 38」(https://respect-38.com/)というプロジェクトを立ち上げ、活動を行っています。
違反者が多い現状の大きな原因の一つとして、「歩行者優先」の義務が車にあることを認識していないドライバーがあまりにも多いのです。
ドライバーには歩行者優先の義務があることを伝え、横断歩道付近ではどのような運転をするのか具体的な指導をしていただきたいと思います。

次回は「事故の結果で指導法を変えない」という第2のポイントについてお話したいと思います。

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執筆:上西 一美
株式会社ディクリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター

1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。