Nautoのロゴ

【交通安全ニュース解説コラム】第28回 人の目で認知できるスピード

みなさんこんにちは、ディ・クリエイトの上西です。
9月18日、北海道で非常に心が痛む事故がありました。
レーシングカートの体験試乗会で、11歳の子が運転する車がコースを外れて観客に突っ込み、2歳の子が脳挫傷で亡くなってしまいました。被害者の子のご冥福をお祈りいたします。

一方で私は加害者となったしまった子の、心理的な傷も気になります。
自分も怖かっただろうし、人をひいてしまい、相手の方が亡くなってしまったという事実が残るわけですから、心の傷はどれほどかと悲痛な思いにかられます。
レーシングカートは時速40kmほどのスピードが出ていたそうです。
会場には安全対策として観客の手前にカラーコーンとコーンバー(樹脂製の棒)が設置されていたようですが、時速40kmで走るレーシングカートの会場に安全策として設置する物がそれだけというのは、私としては「ありえない」状態です。
時速40kmの乗り物が事故を起こした場合の死亡率について、運営側のスタッフの方が理解していたのか、疑問を持たざるを得ません。

人が死ぬ速度

今回は速度の話をしたいと思います。
皆さんは、幅6メートルもないような生活道路を走行する際、時速何kmで走行するように心がけていますか。
私はこれまでにドライブレコーダーの映像を2万件以上見てきましたが、生活道路を時速40kmで走行する車をよく見かけます。住宅街の幅の狭い道を時速40kmで走るのは自殺行為というより、もはや殺人行為と言っても過言ではないと思います。
この速度で走行している所に、子供が飛び出して来たら、死亡事故になってしまう可能性が非常に高いのです。

時速30kmの車と歩行者が衝突した場合の死亡率は0.9%です。
時速40kmだと、死亡率は2.7%に上がります。
時速50kmになると、死亡率は7.8%になります。

「速い」と感じるか「遅い」と感じるかは道路状況によって違いますが、日常的に車を運転している方だと、時速40kmと聞くと比較的「低速」と感じる方が多いのではないかと思います。

法定速度は時速60km、制限速度は一般道が時速50km、片側一車線の道路が時速40km、道幅が5.5メートル未満の生活道路になると時速30kmに指定されています。
みなさんはもちろん「ゾーン30」という時速30kmまでスピードを落とすよう指定された区域についてご存じだと思います。学校の近くなどに多く設置されています。
子供が多い学校周辺などがゾーン30として指定された背景には、やはり死亡率の高さがあると思います。
私たちは、法定速度や制限速度を基準に速いか遅いかを判断してしまいがちですが、人を殺してしまう速度かどうかで考えると、死亡事故になる可能性がある時速30kmでも十分「速い」のです。

100人に接触したらそのうち3人が亡くなってしまう時速40kmという速度は、決して安全な速度ではないのです。

人間が「しっかり確認できる」限界を超えているスピード

私たちの「目」は速度何kmまで対応できると思いますか。
ただ見るだけであれば、ある程度の速度まで対応が可能かもしれませんが、「見て」安全を「判断」することができる速度について考えてみてください。
人間の目でしっかりと認知できる速度は、自分の走る速度と同じくらいと言われています。
市民ランナーの成人男性の平均速度は時速約9km、成人女性では時速8.2kmと言われています。
世界最速の男性でも、瞬間最高速度は時速40km台だそうです。
それ以上の速度は、目の限界を超える速度なのです。車を運転するということは、人間の能力を超えた状態を継続しているということなのです。

ところが、事故を起こさなかった、スピードを出しても問題なく走行できた、といった「成功体験」を積み重ねていくとどんどんエスカレートしていき、運転が雑になり、スピードを出しても大丈夫と思い込んでしまいます。
しかし、人間がきちんと「確認できる」速度は優に超えているのです。
時速40km以上のスピードで走行する時には、そのことと、死亡率の高さを常に意識して運転してください。

レーシングカートや自転車など、お子さんが乗るスピードの出る乗り物に関しては、周囲の大人がしっかりと責任を持って対策し、二度と冒頭のような悲しい事故が起こらないようにしていただきたいと切に願います。

=====
執筆:上西 一美
株式会社ディクリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター

1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。