Nautoのロゴ

【交通安全ニュース解説コラム】第68回 起きるまでは実力、起きてからは運

みなさんこんにちは、ディ・クリエイトの上西です。
私は「交通事故防止コンサルタント」という肩書で仕事をしています。
この仕事を始めて、もう20年になります。
20年前は、交通事故防止のコンサルティングという業界自体がなくて、自分でその道を切り拓いて作っていくということも大きなやりがいになっていました。
自分が作り出した仕事で成果があがり、お客様からコンサルティング料として報酬もいただけるまでになり、私は運が良いと思っています。

私はいま、「運が良い」と表現しましたが、みなさんは「運が良い」「運が悪い」という言葉を、日常で使うことがありますか?
セミナーや研修などで交通事故防止の話をする時も、私は「運」の話をよくします。

交通事故の動画などを見た時や、あるいは交通事故を起こした経験がある人はその事故の瞬間に、「運が悪かった!」と考えることがあるでしょうか。
事故を起こす人と起こさない人の差というのは、運の良し悪しではありません。
自分の運転の実力が原因で、事故は起こります。

 

事故の原因は自分の実力、事故の結果は運 

例えば、確認を怠ってしまったり、車間距離が不十分であったり、そもそも交通ルールを守っていなかったりと、様々な「やらなかったこと」や「やってはいけないのにやってしまったこと」が原因で事故は起こるのです。

しかし、起こしてしまった事故の結果には、運が影響することがあります。
事故を起こした車が歩道に進入してしまい、その先に歩行者がいるかもしれない。
事故を起こしたことに慌てて、ハンドルを操作した時、目の前に自転車やバイクがいるかもしれない。
事故を起こすか起こさないかは運転者の実力ですが、その結果は、事故を起こした運転者が選ぶことはできないのです。

過去に分析をした事故映像の中に、非常に「運が悪かった」と思ってしまう映像がありました。
それは、運転者が左折時に歩行者を発見して停止し、再度車を発進させた直後の事故でした。
発見した歩行者とは反対側から歩行者が来ていたことに気づいておらず、接触してしまったのです。
発進直後なので、時速は2~3キロ程度です。
接触した相手は78歳の女性でした。
女性は接触後に転んでしまったのですが、その拍子に地面に頭をぶつけてしまいました。
たまたま打ち所が悪くて、3日後に亡くなられてしまいました。
その事故は運転者にとって生まれて初めて起こしてしまった事故で、しかも定年退職の数か月前という時期でした。

この事故の原因は、運転者による歩行者の見落としですが、結果として死亡事故になってしまうかどうかは、運転者にはどうすることもできないことなのです。

だからこそ、運が上がるような運転をしなければなりません。
車間距離は速度に合わせた適切な距離を確保し、
法定速度を守り、
確認動作を多く行う。
これが「運が上がる」運転行動です。
事故防止に繋がる運転行動を日頃から行って、運の悪さを引き寄せないようにしてもらいたいと思います。

 

=====
執筆:上西 一美
株式会社ディ・クリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター

1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。