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第11回:事故の結果で指導法を変えない

前回に引き続き、「指導のポイント」についてのお話です。
今回は第2のポイントである「事故の結果で指導法を変えない」ということについてお伝えしたいと思います。

 

車が歩道に乗り上げて、歩行者や自転車の方を巻き込んでしまうという痛ましい事故が、意外と頻繁に起こっています。
巻き込みはしなかったけれど電柱やガードレールがなければ歩行者を巻き込み、最悪の場合は死亡事故になっていたかもしれない、という事故まで含めると甚大な数になると思います。

 

事故の大小ではなく、事故原因を見る

過去に分析した事故映像に、とても似たケースの右直事故がいくつかありました。
いずれもドライバーの運転に原因があり、しかも同じ行動パターンによるものでした。
どちらも交差点での右直事故なのですが、一つは相手車が衝撃で横転してしまったものでした。車道と歩道の間にたまたまガードレールがあったので車が横転して止まったのですが、ガードレールがなければ、間違いなく歩道で横断歩道側の信号待ちをしていた自転車の親子が巻き込まれていました。

 

もう一つは、直進するタクシーに右側から盗難車が出てきて当たった事故だったのですが、当てられたタクシーは衝撃で左を向いてしまいました。そしてそのまま、やはり信号待ちをしている自転車に向かって行ってしまった。
これもたまたま電柱があったので自転車の親子は比較的軽傷ですみましたが、おそらく電柱がなければその場にいた歩行者の方は亡くなっているほどの事故でした。

 

2019年に、散歩中の保育園児16人を巻き込んでしまった悲惨な事故がありました。事故現場には、ガードレールがありませんでした。これも右直事故による歩行者巻き込み事故でした。
先の2件も、ガードレールや電柱がなければ確実に歩行者が巻き込まれている状況です。ガードレールがあったかどうか、そしてガードレールがあったとしても歩行者や自転車の方が内側に立っていたか外側に立っていたか、この違いで事故の結果は大きく変わるのです。
この条件はドライバーにとってどうにかできるものではありません。しかし、事故の結果だけを元に対策を練ることがあります。これが怖いのです。結果だけ見て「怪我人がいなくて良かった。次からは気を付けるように」というような対策では、ドライバーの行動パターンは変わりません。

 

軽微な事故は重大事故の芽

いずれの事故も、交差点での減速をしていない事が事故原因です。
僕が分析した事故映像では、減速どころか信号が黄色になっているにも関わらず、アクセルを踏んでしまっていました。この行動パターンは論外です。黄色は「止まれ」の合図ですから、踏むのはアクセルではなくブレーキでなければなりません。事故の原因はここにあるのです。
黄色信号でアクセルを踏むという行動パターンを見落としてしまうと、「交差点に進入する際は速度を落とす」「黄色信号では止まる」といった対策を指導できず、いずれ死亡事故を起こしてしまう可能性が残されてしまうのです。

 

事故を起こすかどうかはドライバーの運転行動によって決まります。しかし事故の大きさはドライバーが決められるわけではありません。
普段から軽微な事故を起こしているドライバーというのは、「どうせ事故を起こしてもこの程度の事だろう」と思ってしまうため、なかなか行動パターンを変えてくれません。人は結果論で判断してしまいがちですから、行動パターンを変えないのです。しかし、管理者は軽微な事故で済んだ時点で止めておかなければなりません。やがて死亡事故を起こしてしまうからです。他者や自身を死なせてしまう前に、行動パターンを変えてあげなければなりません。

 

そのためにも、事故の結果を見て対策を決めるのではなく、なぜその事故が起こったのか根本原因を突き止め、それを回避するための対策を伝えてあげる必要があるのです。

 

次回でこの連載も最終回を迎えます。
最後のテーマは「個人のリスクに落とし込む」をテーマにお話ししたいと思います。

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執筆:上西 一美
株式会社ディクリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター

1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。