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【交通安全ニュース解説コラム】第51回 「まさか」の路上横臥に備える

みなさんこんにちは、ディ・クリエイトの上西です。
9月初旬、東京都世田谷区で歩行者をはねたタクシーが、2kmにわたって歩行者を引きずるという事故がありました。
タクシーは通報することなく走り去っており、後にひき逃げにより逮捕されました。
実はこの歩行者は、タクシーにはねられる前にバイクと衝突しており、路上に倒れたところを後続のタクシーにひかれ、そのまま引きずられたと見られています。
歩行者は2km先の路上でさらに別のタクシーにひかれ、そのタクシーの運転者が事故の通報をしました。
残念ながら歩行者の方は亡くなられてしまいました。
バイクの後に歩行者をひいたタクシーの運転者は、「鉄の棒か何かに乗り上げたと思った」と述べており、事故後に確認をしていなかったそうです。

死亡率の高い路上横臥事故

歩行者が道路上に横たわっている状態でひかれてしまう事故を、歩行者路上横臥(おうが)事故と言います。
この事故の特徴は、死亡率が非常に高いことです。
歩行中の人と車両が接触した場合の死亡率が2.3%であるのに対し、歩行者路上横臥事故での死亡率はその15倍となる33%にもなるのです。
もう一つの特徴は、8月や12月に多い事故であるということです。
これは、路上横臥の原因の多くが、飲酒による路上での居眠りだからです。
8月と12月に路上横臥事故が増えるのは、暑気払いや忘年会などの飲み会シーズンにあたることが一因だと言えます。
路上横臥事故を起こした運転者の中には、今回の世田谷区での事故のように、人ではなく「落下物やゴミだと思った」と証言する人がいます。
これは、運転者が「路上に人が寝ている」という想定をあまりしていないからだと思われます。
事故の多くは、酔った人が寝ている時間、つまり夜半から明け方にかけて多く起こるため、対象物をはっきりと認識できる状況ではありません。
そのため、運転者は「何か」に乗り上げて走行したことが分かっていたとしても、「人ではないはずだ」「自分が人をひくはずがない」という自己保身ともいえる考えから「ゴミか何かに乗り上げた」と判断してしまうのだと思います。
ひいてしまった人を数km引きずった状態でも気づかないことがあるというのも、歩行者路上横臥事故の特徴です。
2020年に愛知県で起きた路上横臥事故では、運転者は自分で「ゴミだと思ったら人だった」と言って警察に通報をしています。
運転者は実は通報した地点の10kmも手前で事故を起こして、そのまま引きずってきていたのです。
この事故の話を聞いた時に、人の思い込みとはこんなにも強いものなのかと驚きました。

夜間はハイビーム走行、そして速度超過をしないこと

路上横臥事故で死亡率が高いのは、夜間で車両通行量が少なく、スピードが出ていることも関係していると思われます。
速度超過することなく、夜間は可能な限りハイビーム走行をし、路上に何か違和感を抱いた場合はすぐに減速してください。
何かに接触した場合や乗り上げてしまった感触があった場合は、直ちに車を停止して、接触した物が何かを確認してください。
「人ではないはず」ではなく「人かもしれない」と思って、対応をしなければなりません。
大阪府、沖縄県、埼玉県、そして千葉県では歩行者路上横臥事故の発生件数が多いと聞きます。
該当の都道府県にお住まいの方は、特に夜間の走行には気をつけてください。

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執筆:上西 一美
株式会社ディ・クリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター

1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。