【交通安全ニュース解説コラム】第29回 自分の運転能力を疑うことの重要性
みなさんこんにちは、ディ・クリエイトの上西です。
先日、ある自動車メーカーが新機能を導入したというニュースがありました。
アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故を防止する目的で導入されたもので、アクセルを急に踏み込んでも加速を抑える機能です。時速30km以下で走行している時にアクセルを急に踏み込んだとしても、加速を抑制してディスプレイと警告音で運転者に警告する仕組みになっています。
もしかしたら、このコラムを読んでいる方の中には「まだ若い自分には必要のない機能だ」と思った方もいるかもしれません。
踏み間違い事故の多くは高齢者が起こした事故としてニュースなどで取り上げられますので、多くの方は「高齢者特有の事故」だと思いがちです。
しかし、警察庁の統計によると、29歳以下の若年齢運転者にも、65歳以上の運転者と同程度の件数の踏み間違い事故が発生しているのです。もちろん、30代から50代の運転者でも踏み間違いによる事故が発生しています。高齢者ではないから無関係、という機能ではないのです。
思い込みが事故を大きくする
高齢者の事故だと思い込んでいる人や自分はそんなことはしないと思い込んでいる人は、踏み間違えた時に自分が踏み間違いをしているとは思わずに、ブレーキを踏んでいるつもりでさらにアクセルを踏み込んでしまいます。
結果として車は暴走し、事故被害が拡大してしまうのです。
また、交通事故防止の仕事をしていると割とよく遭遇するのですが、もう一つ、踏み間違い事故と同じ「思い込み」による事故があります。
それが、高さ制限のある場所に、制限を超えた車高のトラック等で突っ込んでしまう事故です。
ある事故で運転者と面談をした時、「高さ制限は書いていなかった」と主張していました。
でも、ドライブレコーダー映像を確認するとしっかり高さ制限の標示があったのです。
アクセルとブレーキの踏み間違い事故だと、運転者が「ブレーキが壊れていた」と証言することも多いです。
どちらのケースでも、運転者が嘘をついていると思われてしまう証言ですが、本人たちは本気でそう思っているのです。
運転者たちは、「標示を見落とすはずがない」、「アクセルとブレーキを踏み間違えるはずがない」と思い込んでいますから、「標示がなかった」、「ブレーキが壊れていた」という証言になってしまうのです。
安全運転には自分を疑うことも必要
自分はミスをしない、自分は完璧な運転をしている、と思っている人ほど、突然大きな事故を起こしてしまうというケースがあります。
交通事故は、自分が予想もしていなかったことが起こった時に発生します。
その時に「そんなことはしない」という思い込みがあると、事故を回避する行動の妨げになってしまうのです。
人がミスをしないということはあり得ないのです。
車の運転をする時には、自分はミスをするのではないか、ミスをしているのではないかという思いを持ち続けることが大切です。
私はうっかり者なので、運転中も何かミスをするかもしれないと思いながら運転をしています。
うっかりミスをしてしまうかもしれない自分の運転が怖いので、何度も確認をしますし、車間距離も十分に取るようにして事故を防ぐ運転行動を取るようにしています。
自分の性格を信じない、自分の運転が怖い、そういう思いは安全運転には必要なことだと思います。
みなさんは「自分は事故を起こさない」と思い込んでいませんか?
その思い込みが、いつか事故を招いてしまうかもしれません。
自分の運転の仕方を見直して、事故を起こす要素を持っていないか考えてみてください。
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執筆:上西 一美
株式会社ディクリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター
1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。