【交通安全ニュース解説コラム】第69回 身体の衰えを自覚しよう
みなさんこんにちは、ディ・クリエイトの上西です。
先日、テレビで高齢運転者の免許返納について報道がありました。
5年前までは増加傾向にあった高齢者の免許返納が、年々減少しており、昨年の自主返納件数は38万2957件で、前年から6万件以上も減っていたそうです。
75歳以上の返納は、全体の68%を占める約26万件だったと警察庁は発表しています。
高齢者による事故では、アクセルとブレーキの踏み間違いや逆走などがその原因として挙げられます。
勘違いしてはいけないのは、高齢だから危ない、ということではありません。
高齢で、自分の運転の技量を理解できていない運転者が、危ないのです。
高齢になると身体能力が衰えます。
視力の衰えはもちろんですが、特に反射時間が長くなることや、認知に時間がかかることが特徴として挙げられます。
重要なのは、その体の衰えに合わせた運転をすることです。
これは、免許返納で取り沙汰される75歳以上だけに言えることではありません。
運転に重要な「目」は、40代から衰える
車の運転には様々な身体能力が必要ですが、その最たるものが視覚です。
しかし、目の機能は40歳から老化が始まります。
それは単純に「老眼になって近くの物が見にくくなる」ということではありません。
目の老化によって、「明暗順応」に時間がかかるようになります。
明暗順応とは、明るい所から急に暗い場所に入った時に目が慣れる「暗順応」と、その逆の暗い所から明るい所へ出た時の「明順応」のことです。
この調節能力が、衰えてきます。
そして、焦点を合わせるための調節機能も衰えます。
いわゆる「眼精疲労」です。
すでに老眼の自覚がある人は、その現象に心当たりがあると思います。
手元の物から遠くの物を見る時、あるいはその逆の場合に、焦点が合うまでに時間がかかりますよね。
眼精疲労がひどくなると、目がかすんだり、物がダブって見えたり、普段よりも光が眩しく感じたりします。
その影響で、頭痛や肩こり、疲労やめまい、吐き気などを感じることもあると言われています。
そして、さらに「深視力」も衰えます。
深視力とは、両目でバランスよく距離を把握する力です。
この力も加齢により衰え、両目ではなくどちらか一方の目を中心に物を見てしまい、距離感がつかめなくなります。
大型自動車免許や二種免許の取得や更新時には、この深視力検査が行われます。
今の身体能力に合った運転を
ここで取り上げた目の衰えは、誰しもに訪れるものです。
老眼になっていないから、まだ高齢者ではないから、ということではなく、40代になったらもう衰え始めているのだと認識してください。
スマホやパソコンの使用などの影響により、目の老化は若年化しています。
30代であっても「体は衰えていく」という認識を持つようにしてください。
目だけでなく、認知能力や判断力、反射神経も衰えていきます。
年を経るごとに認知や判断、反射に時間がかかるようになります。
若い時と同じような運転をしているのであれば、意識を改めてください。
気づかない間に、標識や歩行者、自転車などを見落としているかもしれません。
ブレーキを踏むまでの時間が伸びているかもしれません。
ヒヤリとした経験に心当たりがある人は、今一度自分の身体能力と、運転行動を振り返ってみてください。
一時停止場所では白線で正しく止まり、安全確認をしてから行動してください。
車間距離は適正距離を取るようにしてください。
「まだ高齢者ではないから大丈夫」
「毎日運転しているから大丈夫」
これらは安全運転において、何の根拠にもなりません。
事故防止のために、事故の加害者にならないために、客観的にご自身の能力を判断してみてください。
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執筆:上西 一美
株式会社ディ・クリエイト代表
一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)理事長
Yahooニュース公式コメンテーター
1969年生まれ。関西学院大学法学部卒業。大手企業を経て神戸のタクシー会社に25歳で入社。27歳からその子会社の社長に就任。その経験を元に、2004年ディ・クリエイトを設立し、交通事故防止コンサルティングを開始。ドライブレコーダーの映像を使った事故防止メソッドを日本で初めて確立し、現在、年間400回以上のセミナー活動をこなす。2万件以上の交通事故映像を駆使し、その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2019年よりYouTube番組『上西一美のドラレコ交通事故防止』を毎日更新中。